簡単に結果につなげられる才能に恵まれたわけでなく、
「むしろ不器用」だった。
そんな橘川氏が課題克服の為に試行錯誤を繰り返して辿り着いた表現方法。
その表現方法を武器に、美術教員とアーティスト活動を両立の上で、
橘川氏がこれから先狙っていくものは?
- MODIQUE (以下 MDQ)
まず始めに、橘川さんが絵と出会ったきっかけを教えて頂けますか?
- 橘川氏
保育園の時に "ミュータント・タートルズ" のオモチャをおじいちゃんおばあちゃんに買ってもらいました。
嬉しくて嬉しくて、そのオモチャの絵を描いたんです。
そうしたら、デッサン線でシャッシャッシャッと幼ながらに凄く上手に描けたんですね。
それを今でも鮮明に覚えていて、
その時に
"あれっ、自分ってこんなに絵が上手だったんだ"
という風に思いました。
それで少しずつ絵を描くのが好きになり、
描いていくうちに、試行錯誤を繰り返して、色々なポイントに気づいて上達していきました。
上手にできるようになると更に好きになって何回も何回も描きたくなるんですよね。
それが絵との出会いであり、
"自分って絵を描くのが好きなんだな"
と思うようになったきっかけですね。
- MDQ
それでは、橘川さんの現在の独自の作品スタイルに辿り着いたきっかけを教えて頂けますか?
- 橘川氏
僕が大学に入る前まで話が遡りますが、
自分が実際に美大を目指すようになって、
そういう人たちに囲まれて勉強していくうちに、
自分がそんなに秀でた存在じゃないということに気付かされたんですよ。
自分のスタイルってなんだろうって凄く考えさせられました。
その時、たまたま "光るネオンのオモチャ" を見つけてそれが目に付いたんです。
"これを作品にしたらどうかな?"
ということで、購入し何枚も写真を撮りました。
そうしたら出来上がった写真が凄く綺麗で、
"この光のネオンの世界観を絵で表現をしたらきっと面白い事になるんじゃないかな?"
って思ったのが、今の僕のスタイルのきっかけなんですよ。
しかし、そのスタイルを見つけてすぐにそこに行き着いたか?
というとそうはいかなかったんですね。
この光やネオンを表現をするというのは凄くテクニックが必要で、実際にやってみるとなかなか描けないんです。
写真のようにならない。
光やネオンの美しさが出てこない。
じゃあどうしようかという事で、
凄く悩んだ結果、受験の時にそのスタイルは一旦封印しました。
でもやっぱり自分の心の中には、
"いつかその表現をしたいんだ!!"
という強い思いがありまして、
その為にはもっと基礎を固めて上手くならなければいけない。
日本大学芸術学部に入ってから地道な努力を繰り返して、
3年生の終わり頃にやっとこういう表現ができるようになってきて、そこからこのスタイルを確立していきました。
(※光るネオンのオモチャ)
- MDQ
色々な想いの中で生まれたオンリーワンのスタイルだと思うのですが、
その中でも誰か影響を受けたアーティストの方はいますか?
- 橘川氏
そうですね、この自分の絵のスタイルには直接関係はしてこないですけども、僕は写実派の画家から影響を受けているのですが、
一番影響を受け参考にしたのは、
"アンドリュー・ワイエス" ですね。
僕は構図を作るのがとても苦手でした。
しかし彼の構図を参考にしたことで、
どういうのが良い構図で、どういうのが悪い構図なのかというのが彼の絵から学んだ印象はあります。
- MDQ
橘川さんは写実の絵を描かれていますが、
抽象画で自分の感情や伝えたいことを表現していくことはされないのですか?
- 橘川氏
実は、僕は抽象画を描かせるとあまりセンスがないみたいで月並みな作品しか描くことができないんですよ。
抽象画を魅力的に描ける人って、とても凄いなって思うんです。
でも、表現の本質は
抽象であろうが具象であろうが、
見ている人が "これいい" って思えばそれが正解だと思うんですよ。
なので、抽象とか具象とかに囚われず、
見てくれる人が "これいい" って思えるような作品を今後も作っていかないといけないなと思っています。
- MDQ
アーティストとして、ご自身が絵以外でこだわっている所はありますか?
- 橘川氏
そうですね、絵に少し関連はしてしまうんですけど、普段から発想のアンテナを張るということを心がけています。
街を歩いていて、
"この風景いいな" とか、 "このポスターいいな"
と思ったら、なんでそれをいいと思ったかを掘り下げて本質を見抜くようにすると、それが自分の作品に繋がってきたりするんですね。
なので、絵と離れている時も常にアンテナを張って生活をするようにしています。
- MDQ
それでは、使っている道具やアトリエに対するこだわりなどはありませんか?
- 橘川氏
そうですね、
今年からこのアトリエを新設したんですけど、
自分が絵を描く空間は美しくなければいけないという考えがあるので、
壁紙から床材に至るまで、この絵にマッチする空間を作るという事を優先して、それを美しく使うという事を心がけています。
また道具に関してのこだわりは、長く使うという事を考えてメンテナンスをきちんとするという部分ですかね。
例えば、筆。
筆って毛なんですよ。
毛ですから、ただ水で洗うだけでなく、
しっかりとシャンプー、リンスをしてあげる。
描くたびにメンテナンスをしっかりとして、
"きちんと掃除する"
"きちんと綺麗にする"
ということは常に心がけています。
- MDQ
ご自身が絵を描く時の姿勢や意識している部分、絵との向き合い方を教えて頂けますか?
- 橘川氏
常に僕が意識していることは、自分を客観視することですね。
まず、
"他人が見てどう思うんだろう"
"コンテストで審査員や専門の人が見てどう評価するか"
"こうだったら絵を買いたいって思うんじゃないか"
などの色々な視点から自分の作品を考えて、
「この場所にこれが必要だな」
「こういうのがあったらいいな 」
「こういう色にしていったらいいな」
なんていうのを考えながら描いてますね。
常に自分を客観視するようにしています。
- MDQ
アーティストの方は、
"わかってくれる人にわかってもらえればいい"
と、自分主体で描いている方が多いのかな?と思っていたのですが、
やはり理解して頂くために、見てくださる方々に寄り添って描くという姿勢や要素は大切になってくるのでしょうか?
- 橘川氏
そうですね。
特に現代美術にその傾向が強いと思うんですけど、その姿勢をそろそろ見直すべき時期に来ているのかなとは思いますね。
言葉は悪いんですけど、
"わかってくれる人にだけわかってもらえばいい"
というのは、自慰行為だと思うんですね。
本来アーティストがやらなければいけないのは、性行為だと思うんですよ。
見ている人も感じさせて気持ちよくさせなければいけないし、描いている自分も楽しくないといけないし、そこはもう必要というかそうじゃないといけないと考えますね。
- MDQ
それでは、少し話を変えさせて頂きます。
橘川さんは大学卒業後から美術の先生というお仕事をされてきたと思いますが、
日本の芸術教育に対してのお考えを聞かせて頂けますか?
- 橘川氏
日本は幼少の頃に芸術に触れる機会がとても少ない傾向にあると思いますが、すごくいい取り組みをしているなと思う地域があります。
今年、神奈川の学校から東京の学校に移ったのですが、実は東京の学校は小学校の段階から美術の先生がいるんですよ。
今までも図工という授業の中で、絵の具や筆を使って美術に触れることはあったかもしれませんが、
美術の専門の先生が小学生達に美術を教えるという取り組みをしているんですね。
僕の知り合いの美術の先生も中学で採用されて、小学校の専科の方に異動になった先生もいます。
小学校の時から専門の先生に指導して貰えるという環境があるので、
東京の中学生と神奈川の中学生の間で、小学校の頃にやってきた表現の幅にすごく差があるんです。
なので、小学校の頃から適切に指導できる先生に教わるというのはとても効果的で、
これからどんどん全国に普及していって欲しいと思います。
また、幼少の頃に芸術に触れることにより、
"情操教育"という部分で感受性豊かな子供達が沢山育つと思うんです。
確かに目に見えない部分の教育だから、学力に反映されるのかは実際分かりづらいかもしれないけど、そういう感受性って絶対に人を豊かにしますよね。
"そういう教育をどんどんしていこう" という気持ちに日本の親御さん達がなっていってくれると、
そのお子さん達の人生って、きっと素晴らしいものになると思うんです。
幼少期の頃からどんどんそういう働きかけをしていくということはすごく大事かなって思いますね。
- MDQ
今年度より教員としての仕事だけではなく、アーティストとしての活動も本格化されていくとのことですが、今後の目標はありますか?
- 橘川氏
とにかく今は絵に関わる仕事をしている瞬間が楽しいので、目標としてはお金がどうこうではなく、まず絵に対しての仕事をどんどん増やしていくということですかね。
そして行き着く先としては、
この表現方法が世間から認められて、
社会に広まり浸透していき、
自分がそれで評価されていく。
これが僕の大きな目標になります。
- MDQ
最後に、橘川さんにとって夜景に映る光やネオンとはどのような存在ですか?
- 橘川氏
それは多くの人が美しいと感じるものだと思います。
そして記憶に残したいと感じるものでもあります。
なので皆さん綺麗な夜景やそこに映る光を見ると写真に残しますよね?
それだけ人の心に影響を与える美しさが夜景や光やネオンにはあります。
そして、それらの美しさを絵で表現しようとした時に誰もが的確に表現できるわけではありません。
僕にしかできない、僕だけのアイデンティティです。
なので僕にとって光やネオンは、
命であり自分の世界です。
- MDQ
本日は貴重なお時間を取って頂きありがとうございました。
橘川さんの今後のご活躍を期待しております。
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